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鋳金技法紹介 — 作品ができるまで — 『 石膏鋳造 』

「石膏(せっこう)鋳造」の最大の特徴は、複雑に入り組んだ彫刻作品や、表面の細かなディテールを忠実に再現することに適している点です。 また、原型を一旦「蝋(ろう)原型」に置き換えることから、さらにその蝋をヘラやコテで修正しながら豊かな表情を出す事もできます。 例を上げると、イタリア近代彫刻の巨匠と云われるマンズー氏の作品は、「蝋原型」の段階で更に造形をすることで、蝋という素材のもつ、やわらかく繊細な表現をブロンズ作品に活かすことに成功しています。 日本で石膏鋳造が広まったのは昭和40年代以降で、やはりヨーロッパの近代彫刻からの影響でしょう。

鋳型を固めるために「石膏」を用いることから、『石膏鋳造』と呼ばれています。

1) 原型の上半分の「シリコン型」を作るために粘土で縁を作ります。(粘土部分は捨て型と呼ばれ、ここから型が分割されます。)2) 原型の上にシリコンゴムを塗布していきます。

3) 二層目のシリコンゴムを塗布した後、強度を高めるためにガーゼを貼り込んでおきます。4) 大きく入り組んだ部分には石膏で「寄せ」(分割型)を作ります。表面の四角い出っ張りは、「はまり」と呼ばれ、シリコンゴムのずれ防止です。

5) さらに外側を石膏と針金・木材で補強します。次に、全体をひっくり返し、反対側の型も同じように作ります。6) シリコン型を分割し、原型を取り出しているところです。昔のイタリアでは、シリコンゴムの代わりにゼラチンを材料に使っていたそうです。

7) シリコンゴムを破かないように丁寧に外します。8) シリコン型を分割した時に外れた「寄せ」を元に戻します。複雑に入り組んだ形になるほど、型の分割線や「寄せ」の位置を慎重に検討する必要があります。(これに失敗すると、シリコン型から原型が外れなくなってしまいます。)

9) シリコン型の内側に溶けた蝋を筆で塗っていきます。気泡が入らないように慎重に作業します。10) さらに蝋を張り込んだり流し込んだりしながら厚みをつけていきます。蝋の厚みは5~7ミリになり、これが金属の厚みになります。

11) 前後のシリコン型を合わせ、「蝋原型」を一体化します。12) シリコン型から取り出された「蝋原型」。ハンダコテやヘラを使って、型の継ぎ目や、はみ出たバリの修正を行ないます。

13) 今回は[ 手のポーズ ]等が複雑だったため、本体とは別に型取りしておき、蝋原型の段階で再び組み立てます。14) ハンダコテを使って蝋を溶かしながら接合していきます。「蝋」には様々な配合のものがあります。柔らかいもの、削りやすいもの、融点の低いものなど、作業工程に応じて使い分けています。

15) 「湯道(ゆみち)」(溶けた金属の流れる道筋)をつけていきます。作品の形状と、溶けた金属がスムーズに流れ込んで静かに固まること、を考慮し湯道を設置します。最も鋳金家の経験値が必要とされる行程です。16) 飛び出た釘は「コウガイ」と呼ばれ、蝋原型の内側に貫通しています。これよって「中子(なかご)」がずれることを防ぎます。(中子とは、蝋原型内部の鋳型のことです。)

17) 湯道が完成し、いよいよ「鋳型」を作り始めます。下側の突き出た棒状部分は「蝋はけ」といい、溶けた蝋を排出する役目があります。18) 蝋原型の表面を丁寧に鋳型材で覆っていきます。筆やスプレーガンなどを使って、気泡が入らないように作業します。(気泡が入ると、金属になった時に丸い粒々が残ってしまいます。)

19) 鋳型の材料は、[ 石膏1・アンツーカー1・使い終わった鋳型材3 ]の割合を水で溶いて作ります。鋳型の外側はパイプ状に積み上げてドロドロの鋳型材を流し込みます。20) 鋳型の外側が出来て来たら、蝋原型内部にも鋳型材を流し込みます。完成した鋳型は人の背丈ほどにもなりました。

21) 鋳型を覆う窯を築き、ガスの炎で「脱蝋」(蝋を溶かして排出する)、さらに「焼成」されます。鋳型にダメージを与えないように慎重に温度管理される必要があります。(この例では、脱蝋が26時間、焼成が34時間、むらし(徐冷)に20時間のトータル80時間かかり、温度は最高630度まで上げられました。)22) 窯を壊して鋳型を取り出し、鋳型の外側は石膏と麻布で補強します。さらに全体を土間に埋めて、土をしっかりと突き固めます。流し込まれる金属の重さで鋳型が膨張したり、割れて高温の金属が飛び散るのを防ぐためです。

23) 「鋳込み(吹き)」の瞬間 。溶けたブロンズは1150度にも達し、流し込んだ量は100キロ近くになりました。鋳込みは、高熱にさらされる非常に危険な作業であるとともに、厳密な温度管理、正確な注湯のタイミングを要する行程です。 鋳金家が最も緊張する瞬間です。24) 鋳型を壊して取り出します。焼成された鋳型は適度にもろくなっていて、このことが溶けた金属の膨張・収縮をうまく吸収してくれます。

25) 湯道を切り、その跡を削って修正。コウガイの穴は象嵌で埋めます。表面はヤスリやタガネで丁寧に仕上げされますが、蝋の風合い・金属の自然な風合いは、なるべく活かされます。26) 完成(着色前)光ったブロンズ色は、時間と共に黒くまだらに変色してしまうので、通常は硫化剤を使 って平均に黒っぽくしたり、緑青を生じさせて暗緑色にするなどの着色が施されます。

謝辞:この記事は、東京藝術大学取手共通工房鋳造室と彫刻家 一井弘和氏のご協力によりまとめられました。(編集:2011年9月 小林 京和)

原稿:小林京和 再編集:松本隆